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番外編 -恋-
突然耳元で、音楽が鳴る。枕に突っ伏して寝ていた千尋は勢いよく頭を上げ、寝ぼけた状態で辺りを見回す。何事かと思ったが、すぐに枕の傍らの携帯電話に気づいた。昨夜、横になったまま友人と話し、そのまま放り出して寝てしまったのだ。
「なんだ、こんな時間に――」
そう言いかけたが、デスクの上の時計に目をやると、すでに昼前だ。ここのところの怠惰な生活のせいで、すっかり生活のリズムが狂ってしまった。
寝入っているところを電話で叩き起こされただけでも最悪なのに、液晶に表示された名を見て、気分はどん底を突き抜ける。
無視したいところだが、千尋は、電話の相手の執念深さが骨身に沁みている。どんな報復に出られるか、わかったものではない。
仕方なく、これ以上なく不機嫌な声で電話に出た。
「――……なんだよ、クソオヤジ」
『おう、生きてたか。バカ息子』
電話越しに聞くバリトンは、いつもと変わらず余裕に満ちているようだが、この男の息子として生まれて二十年、多少なりと千尋にも独自の勘というものがある。
その勘が、こう訴えていた。父親は今、機嫌が悪いと――。
モソモソと体を起こした千尋は、ベッドの上であぐらをかく。
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