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番外編 -縁-
開けた窓からようやく風が入り込んでくる。少しも涼しさを運んではこない、室温よりも高く感じられる風だ。
体調を崩している頃なら、この風にあたっただけで気分が悪くなり、すぐに横になっていただろうが、今は違う。暑かろうが、寒かろうが、季節を肌で感じてみたいという、強い衝動があった。
イスに腰掛けた秋慈は、首筋にまとわりつく伸びた髪を軽く指で梳く。昼下がり、汗ばみながらも熱いお茶を飲みつつ、庭を眺めるのが、秋慈のささやかな楽しみだった。基本的に秋慈の生活は、変化に乏しい。だからこそ、例えどんな小さな変化であろうが、愛でたくなる。
初夏の陽射しを浴びている庭は、鮮やかな緑と花々で溢れていた。日々、体調と相談しつつ少しずつ手入れしていったもので、数年かかってやっとここまできた。庭の片隅で咲いている紫陽花が最近のお気に入りだが、アーチに覆い被さるようにして咲いているクレマチスの白い花は、陽射しを浴びるとまぶしいほどだ。
天気もいいし、体調も気分もいい。こういうときは散歩に出たいところだが、あいにく今日は、予定が入っていた。
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