色『黄色いランドセルカバー』

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色『黄色いランドセルカバー』

  黄色いランドセルカバーを返すタイミングを逸してしまいました。さっちゃんはとっても可愛いけど娘を追い越したのはちょっと『おいた』が過ぎましたね。足元には赤の中で青の光が回転しています。その渦は次第に広がり、中心に渦巻くブラックホールの中で誰かが黄色いランドセルカバーを振って私を誘っています。  うちの子を事故で失ってから八年が過ぎました。それ以来夫婦仲もぎごちなくなり、五年前に離婚しました。私も家内も悲しみを乗り越えようと精一杯努力しました。しかし、顔を合わせるたびにあの子のことを想い出してしまうのです。話をするたびに涙が溢れてくるのです。家内に似た目鼻立ちと、私に似た額と顎、食事のとき向かい合うだけで息が詰まり、食事が喉を通らなくなってしまうのでした。それはあの子が亡くなってから離婚するまでずっと続いていました。このまま一緒にいては、お互いが挫けたまま立ち直れないと結論を出し、家内の親族にも了解をいただき、合意の上離婚したのでした。 「こんなことをこの場で言うのはおまえに失礼かもしれないが、好きな男性ができたら、私に気遣うことなく幸せになって欲しい。あの子の分まで精一杯幸せに生きて欲しい」  鳥肌が立つような別れのせりふでしたが、自分なりに素直な気持ちを表現できたと思います。 「あなたも」と言い残して、家内は実家の福島に戻りました。三十代前半の彼女は、私と別れた二年後に見合いをし、再婚しました。私に届いた白い封筒には、その結果だけが記されており、招待については一言も案内がありませんでした。
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