プロローグ~鷲獅子編~

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 よく晴れた7月になったばかりの朝6時。最近は龍も訓練に来る回数が減っていた。それは仕方がないとも言える。龍は6月下旬から、ツェルンアイとともに重い荷物を運んでいるのだ。『黒龍』の姿になれば、重い荷物をいくつも同時に運ぶことができる。  背中に乗せたり、下ろしたりするには手伝ってもらわないといけないが、空を飛んで運ぶため、陸路よりも早く運べるのだ。ツェルンアイが来る前から、荷物を運ぶことはよくあった。  しかし背中に乗せる荷物を押える方法がなかったため、多くても2つしか運ぶことができなかったのだ。飛ぶ速度も、荷物を落とさないようにしなくてはいけないためゆっくりだったのだ。  だがツェルンアイに荷物を押さえてもらうことによって、速度を上げることができた。荷物を落とす心配をあまりしなくていいからだ。同じ場所や近くに届ける荷物は、紐で結ぶことによって紐を掴んでいれば落とす心配もなかった。  一度に運ぶ量は重さによっては少ないが、アレースやウェイバー以外にも郵便配達員からの依頼もされるようになった。龍に運ばせてもいいかと、荷物を受け取る時に聞いているようだ。荷物を持って来た人達が、龍が運んでもいいと言ったものだけを龍は引き受けている。龍も用事がある時は前もって言うため、郵便配達員は大きい物や重い物であれば龍に運んでもらうことが多くなっていた。  依頼を引き受け、荷物を届ける。戻って届けたことを報告し、依頼料を受け取る。ここ最近は、毎日それを繰り返しているのだ。午前中で終わることもあれば、中にはまた頼まれて日が沈んでから終わることもある。  そのため、疲れから龍は訓練に来れなくなっていた。週に二度は休み、その日は9時頃まで寝ていると身分証明書を受け取りに来たツェルンアイが言っていたことを思い出す。  荷物を押さえるだけのため、龍よりは疲れていないツェルンアイだったが、目的地付近の広い場所に降りてそこから荷物を届けるのはほとんどがツェルンアイだ。獣人ということもあり、重い物も1人で持ち上げられる。しかし、疲れないわけではない。  龍よりは疲れていないと言っても、ツェルンアイも疲れていることには変わりはない。休みの日は8時まで眠っているが、それ以外は6時に起きている。7時には荷物を運ぶため家を出るのだ。
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