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最近龍が訓練をしに来ないため、城のコックは朝食の味見をしてもらえないと言っていた。メイドと執事達も、『黒龍』の姿を見れず、残念がっている者も多かった。龍と話を楽しみにしている者も多く、姿を見せないため元気のない者もいる。
この城い長く住んでいて、元気なのはただ1人だろうと、庭の横を通り過ぎながらエードは思った。元気を通り越して、気持ちが悪いほど機嫌がいいのだ。だが、それは仕方のないことだ。
小さく息を吐いて、玄関の前を通りすぎようとした時だった。扉をノックする音が聞こえた。こんな朝早くに訪ねてくるのはいったい誰だと首を傾げた。今日は訪ねてくる者もいないはずだと、頭の中で今日の予定を思い出す。
たとえ訪ねる者がいたとしても、こんな朝早くに来る者などいるはずがない。それならば、誰が来たというのか。そう思ったと同時に、思い当たる者がいた。扉へ近づくと、一応警戒をしながらゆっくりと扉を開いた。扉の前には、予想していた人物が立っていた。
「おはようございます。朝早くからお疲れ様です、アルトさん」
「おはよう、エード。早朝に届けてほしいという手紙がありまして。それとアレースのご両親の手紙も持ってきました」
そう言ってアルトが手渡したのは、二通の封筒だった。一通は文字を見ただけでもわかる。ゼウスとテニスからだ。アレースだけではなく、エリスも喜ぶだろうと考えながらもう一通を見て固まってしまった。
封筒には蝋封がされていた。それに刻まれているのは、1匹の『龍』だった。エードは、それに見覚えがあった。何故なら、そこへ数度訪れて何度も目にしたからだ。
「……これは、アクアセルシス王国から!?」
「国王からの手紙で、それが早朝に届けてほしいと言われた手紙」
「たしかに受け取りました」
頭を下げるエードに、アルトも頭を下げると扉から離れて門へと近づいて行った。門番と何かを話し、門を開けてもらい出て行く姿を確認してからエードは扉を閉めた。
二通の手紙を右手に持ち、エードはアレースがいるであろう部屋へ向かうために歩き出した。何故アクアセルシス王国の国王自らが手紙を書いたのかエードにはわからなかった。それはきっと、アレースも同じだろうと考えて階段を上った。
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