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人型でいる時は卵を温めないため、アレースに卵が冷えると怒られるが、少しの間温めずとも影響はない。だが、アレースが心配するため見つかればすぐに温めるのだ。そんな卵を生んだ悠鳥は、最初の頃より卵が僅かに大きくなっている気がしていた。しかし誰も何も言わないため、悠鳥は気の所為と思うことにしている。
「写真に映っている者を知っている気がしたのじゃが……気の所為だったようじゃ」
知っている人物の後ろ姿に似ていたが、髪の色も種族も違う。どうして知っている人物と思ったのかと、悠鳥は首を傾げた。
「それで、もう一通は誰からじゃ?」
「ああ。えっと……アイル・セルシス」
「なんじゃと!?」
その名前は、アクアセルシス王国の国王。関わりがなくとも、18年前国王になった者の名前は悠鳥でも知っていた。何故、突然手紙を送ってきたのかはわからないが。
アレースが封筒を開くと、『龍』が描かれた蝋封が砕けてアレースの膝の上に落ちるが、アレースは気にすることなく手紙を取り出した。
取り出した手紙以外の全てを、また自分の左側に置くと、折りたたまれたそれを開いた。そこには、封筒に書かれていた同じ綺麗な文字が並んでいた。アレースは、それを声に出して読みはじめた。
『私自らの直筆では、はじめまして。私はアイル・セルシスと申します。この度は、ご結婚おめでとうございます。心から祝福させていただきます』
「こいつのところに、結婚の報告をしていないのに何故知っているんだ?」
「それよりも、用件はなんじゃ?」
関わりがないため、結婚をしたことを報告していないのに、何故知っているのかと首を傾げる。しかし、悠鳥はそんなことよりも用件を知りたかった。
今まで関わりがなかった国に手紙を書いたのには、名前を貸してくれた時のように理由があるはずだ。エードも同じことを思っていたようで、何も言わずにアレースを促した。前回も、何故名前を貸してくれたのかすらわかってはいないのだ。
『今度、是非『黒龍』と『白龍』をつれ、アクアセルシス王国へお越しください。お話ししたいこともあります。その時は、歓迎いたします』
龍と白龍をつれて、アクアセルシス王国に来てくれというのが、どうやらアイルの用件だったようだ。話したいことが何かはわからない。気になると言えば、気になる。しかし、アレースは今とても忙しく国を離れることなんてできなかった。
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