春になるのが

　春になるのが楽しみだ。
　目の前には青空が広がっている。玄関から一歩外に出ると、温かい風に包まれた。少し歩くと脇に汗がにじんできた。もう冬コートじゃ暑いくらいか。
　マキシ丈でひらひらの花柄のワンピース。スイーツみたいな商品名のぷるぷるのリップグロス。ゴールドの花の装飾がついたピン。レースがついたシュシュ。キャラメル色のレースアップシューズ。機能性ばっちりでバイカラーのリュック。はい、可愛い。全部可愛い。
　「可愛い」を身に着けると強くなった気がする。
　もう少ししたら春用の上着で良いかな。お正月に買った福袋に入っていたカーキのジャケットがやっと着られる。このワンピースと合わせたらすっごく可愛いんだ。
　あぁ、春になるのが楽しみだ。

　春になるのが怖い。
　目の前には青空が広がっている。公園の前で話している奥様方はもうコートじゃなくてカーディガンのようなものを着ていた。あっちの自転車に乗ったおじ様はまだダウンジャケットだ。周りの人達を見ていると、皆服装を迷っているのか、厚着だったり薄着だったりバラバラだ。
　来月で働き始めて一年になる。異動が発表されるかもしれない。もしそういった変化が自分自身になくても、来月には必ず新入社員が入って来る。私は大して教えられるほどの能力も身に付かず、ただ一年が経ってしまったと言うのに。上司から注意を受ける姿を後輩に見られたらどうしよう。あっという間に抜かされてしまったらどうしよう。
　あぁ、春になるのが怖い。

　風が青葉をさらっていく。

　　　春になるのが―