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「そうだ、ちょっとコンビニ寄っていい?」 私の左隣を歩く先輩が、ふと足を止めてそんな事を言った。もちろん良いですよ、と返すと先輩は小さく微笑んで、また歩き出した。 コンビニに足を踏み入れると、独特な入店音と冷房が私と先輩を迎えてくれた。今年最大級の猛暑によって今にも溶けそうだった体は冷風に当てられて、形を取り戻していくようだった。着くなりアイスコーナーへと向かう先輩のワイシャツは、汗で背中が濡れていた。 暑かったのは先輩も一緒なんだ。 「ありゃーとござーしたー」 会計を済ませ、店員さんの挨拶と冷房を後にしてコンビニを出ると、うざったいくらいに明るい日差しが私を刺した。涼しい顔をしていると言われる私だって人並みに暑がるし、恋だってする。 「はい、良かったらどうぞ」 先輩は二本入りのアイスの片方を私に差し出しながら、そう言った。 「ありがとうございます」 それを受け取り手の中に収めると、ひんやりとしていて気持ちよかった。遠慮する素振りだけでもしておくべきだったかな、食い意地はってると思われた?そんな考えは受け取ってしまった後に限って思い浮かぶもので。 「そういえばさ、花火大会の予定とかはあるの?」 ハナビタイカイ?…って、花火大会? 「え、っと…特には、無いんですけど」 理解も及ばないまま出た言葉に偽りは無く、代わりに期待と不安が混じっていた。県内でも最大級の花火大会。私はその予定を聞かれていて。どうしてですか?なんて口に出すことは出来ず、私はただ先輩の言葉を待った。 「そうなんだ」 「はい、先輩はご予定あるんですか?」 違う。私が聞きたいのはそんな事じゃなくて、もっと、もっと。 「いや、俺も無くてさ」 そんな言葉の後に、先輩はこう続けた。 「その、迷惑じゃなかったら誘ってもいいかな?」 「…はい、こちらこそ、お願いします」 胸を抑えた私がそう答えると、沈黙が流れた。 十七年の間で一番長くて、幸せな沈黙だった。 先輩にとっても、そうだったなら嬉しい。 やがて、沈黙を破ったのは先輩の方からだった。 「今日、暑いね」 「…本当ですね」 顔は燃えるようで、手に握られたアイスは溶けきっていた。
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