とけないアイスクリーム

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「美味!」  太陽神は叫んだ。 「なんと優しく、口の中で溶けていくのだ。この世にこのような うまいものがあるとは。さすがはわたしの料理人だ」  子どものように喜ぶ太陽神に、料理人も嬉しくなった。 「雪の女神様が、最後の仕上げをしてくれたからでございます。 お力添えをいただき、まことにありがとうございます」  料理人は帽子を取り、雪の女神に深々と頭を下げた。 「気にしないでちょうだい。私もアイスをいただいてますから」  女神は太陽神が口に含んだスプーンで山のアイスクリームを すくい取ると、自らの口に放りこんだ。 「まぁ、美味しい。あなた、本当に最高の料理人ね」  うっとりとした女神に、太陽神はもちろん料理人の顔も 赤くなった。 「よろしければ、たまにこうして食事を一緒にしませんこと? お友達ができて嬉しいわ」 「お友達……。なっていただけるのですか? 雪の女神殿」 「ええ。もうなってるつもりですけどね」  女神の言葉に、太陽神はぎゅっと目を瞑った。 「料理人……わたしは嬉しい。友とアイスクリームを食べる ことができるのだから」  太陽神が絞り出すような声で囁いた。  料理人は気付いていた。太陽神は人間と同じように、 友や家族と仲良くアイスクリームを食べてみたかったのだ、と。 (太陽神様は、お寂しかったのかもしれない)  料理人は思った。至高の存在として真面目に働いてきた 太陽神であったが、彼とて寂しくなることはあるのだ。 けれど、誇り高き太陽神が「寂しい」などと、どうして口に できようか。主の真の願いを汲み取ったからこそ、雪の女神の元を 訪れ、招待したのだ。 「おまえは最高の料理人だ。わたしの心を見事に溶かしてくれた。 これからもよろしく頼む」 「とんでもございません。私はただの料理人。これからも 貴方様のためにお食事を用意させていただきます」  料理人はうやうやしくお辞儀をした。  太陽神と雪の女神が談笑し、アイスを食べあうのを見守りながら、 料理人はこれからも自らの職務に邁進しようと誓うのだった。                了
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