太陽神の料理人

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 太陽神にアイスクリームを食べてもらうには、 『溶けないアイスクリーム』を用意する必要がある。 しかしそのようなアイスクリームが、あるのだろうか? アイスクリームはひんやりとした口当たりと、舌の上でまろやかに 溶けることを楽しむ繊細な菓子だ。太陽神にお出しして 口に運ぶ前に溶けてしまっては意味がない。 溶けることなくアイスクリームの味わいを楽しんでもらうには、 どうすればいいのか。 料理人にはすぐに答えが出せなかった。 「すまない、料理人。わたしのわがままだったようだ。忘れてくれ」  考え込んでしまった料理人を気遣い、太陽神は優しく声をかけた。 「とんでもございません、太陽神様。私こそすぐにお答えできず 申し訳ありません」 「よい、気にするな」  明らかに気落ちした主の様子を見て、料理人は尋ねてみることにした。 「太陽神様、差し支えなければお教えいただけないでしょうか。 なぜアイスクリームをお食べになりたいのですか?」  太陽神は目を細め、何かを思い出すように語り始めた。 「人間の娘たちや幼子を抱えた家族が、美味しそうに アイスクリームを食べているのを見てしまったから、かもしれぬな。 アイスクリームは冷たい食べ物だと聞いている。冷たいものを食べるならもっと寒そうにして いいはずなのに、どの人間たちも友や家族と楽しそうに語らいながら 食していた。もしも、アイスクリームを食べることができたなら、 わたしもその気持ちが理解できるかもしれぬ。そう思ったのだ」  太陽神は好奇心だけでアイスクリームを食べたいといったのではないのだ。 料理人はなんとしても、太陽神にアイスクリームを食べてほしいと思った。 「太陽神様、少しお時間をいただけますでしょうか? アイスクリームを御用意 できるよう、頑張ってみたいと思います」  太陽神の顔が輝いた。この日から料理人の奮闘が始まったのだ。
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