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case1.燃える
「有栖さん、有栖さん、ちょっと。」
自分に向けられた声と気づき、はっとする。
後ろを振り返ると、ゆったりとソファに腰掛ける人物が目に入った。
白衣を着て、兎のマスクを被った男。
窓から差し込む明るい日差しが、マスクのふわふわの白い毛を浮かび上がらせる。
「次の患者さんを呼んできてくれませんか。飲み物は僕が用意しておきますから。」
指示に従い、入り口の方へ向かう。
ドアを手前に引くと、唐突に流れ込んできた熱波に襲われた。
目の前に立つ『患者』は、頭から真っ赤な炎を上げていた。熱い、大きな炎の熱。
子供の頃、キャンプでやった焚き火を思い出した。
その時の炎は、人の頭ではなく薪を媒介にして燃えていたが。
「先生!これどうにかなりますよね?
ああもう、熱っ!痛っ!」
ドアが開いた瞬間に部屋に滑り込み苦痛を訴えているのは、どうやら男性らしい。
スーツ姿にネクタイを締めている。
その表情はーー顔の輪郭すらも、炎に包まれて見えない。
『先生』と呼ばれた兎男は、台所から3人分のコーヒーをトレイに載せて運んでいる。
「まあ、まずはそちらにお掛けください。
どうにかできるかはさておき……少なくとも患者さんの苦痛を和らげられるよう手は尽くしますよ。」
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