ボンボンのお仕事

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 長身であったが、巨漢ではない。それでも、そんな重いものを自由に使いこなすのは、彼女の体を動かす要領が良い性だろう。そこには間違いなく天性のものがあった。失踪した天才柔道家の父親の”血”であるというのが、もっぱらの世間の評価だった。  それには美惠子も同意するしかなかった。”どうして”と聴かれても説明に困るほど、”だって、出来てしまうのだから、仕方ないじゃん”なのだ。余人が聞けば、うらやましいことこの上ないだろう。彼女の長身といささか豊満な女性の体も、その父親から、そして、美貌は叔母たちからのもののようだ。  父の失踪後、離婚し、彼女を残して去った母親に似ているところは、ほとんどない。それは、人生の大半を叔母の三千子に養育された彼女には、一抹の救いだった。実際、幼いころには、自分は彼女の娘なのではないかと疑ったこともある。おじ、おばは、映画スターにしたいほどの美貌なのだが、美惠子が見下ろすほど小柄で華奢な印象があった。  ちなみに、彼女のおじは東丈という超常現象研究家として、マスコミのその手の”怪しい番組”に顔を出す、その”業界”では、そこそこな有名人だった。もっとも、本人は、周囲の評価と違い、まじめに超常現象に取り組む学究の徒を気取っているのだったが。  あるいは、その彼女を動かす”何か”も、おじの影響なのかもしれないな、とは思うが、自分の場合、少々カンが鋭いという程度で、超能力と考えたことは一度もなかったのだが。  さて、まあ、そんな本庁の元花形刑事だった人間が、今は東京湾の千葉県側にあるウイングシティの”湘南市”・・うそではない、江ノ島方面でなくても、これがこの地の正式名称として地図にも乗っているのだ・・の警察署でミニパトのお姉さんをしているかというと、ある事件で先走って失敗し、はろばろ、ウイングシティまで”左遷”されてしまったのである。  もっとも、女ドーベルマン刑事、庶民の喝采は浴びているが、融通の利かない正義漢という、ハリウッド映画の中にもこの時代あまりいないようなヒーロー型人間であった。このままいけば、いずれ、この国の支配層の暗部に噛み付いていくのは必定。それを警戒した連中が、実際はそれほどの罪でもない失敗を理由に、本庁から、飛ばしたのである。
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