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俺は絶対に人前で笑わない。唯一笑顔を作るのは誰もいない朝,1人の時だけで,人前では微笑むのが精一杯だ。それでも心の底から笑うことはない。
いつからそうなったのかといえば,俺が高校2年生の夏休みのときだった。それまでは楽しければ笑うし,笑うことを我慢するなど人生で一度もなかった。しかし,その年の夏休みのある出来事以来,俺は絶対に人前で笑えなくなった。
夏休みのある日,学校の友達と一緒に地元の海水浴場で遊んでいた。その日は朝から記録的な暑さで,アスファルトが熱で溶け辺りを石油臭くし,ジッとしているだけでも倒れてしまいそうな一日だった。
海水浴場から少し離れると,その一帯は人を寄せ付けないような危険な岩場が多く,真っ黒で鋭いカミソリの鋭い刃に似た岩と岩の間に囲まれるようにして,小さいが真っ白でキメの細かい砂浜が点在していた。
俺達は子供の頃からよく来ている遊び場だったので,どこに荷物を置いて,どこの岩場で遊ぶかまで昔から変わっていなかった。昔から地元民は観光客が使う海水浴場から少し離れたこの岩場で遊ぶのだが,遊ぶ場所が自然と棲み分けされており,ざっくりとだが出身中学校で岩場が分れているような感じだった。
観光客がその岩場に入って来ると,地元民達は阿吽の呼吸で閉鎖的な雰囲気をつくった。そんなことがもう何十年と続いていたので,よほどのことがない限り観光客がこの場所に近寄ることはなかった。
海の水は透明で少し潜れば貝が獲れ,モリがあれば魚が突けた。いまでは漁協がうるさく,夏場だけ遊びに来る海水浴客が貝を獲ったりすればすぐに密漁だと注意されるが,俺達は物心がついたころからここで遊んでいたので地元の漁師たちも俺たちにうるさくいう人はいなかった。
なんなら地元の漁師のほとんどが,小学校か中学校の先輩にあたり,担任と同級生だったとか今の校長が新任だったころに教わっていたといった話を聞かせてくれた。
漁師のほとんどが中学生のころは何度も警察のお世話になっていたような連中ばかりで,大人になったいまでも気性は荒いが,俺たちが岩場で多少危険な遊びをしていても笑って観ているような連中だった。
そんな漁師たちにも笑って済まされないことはいくつかあり,とくに命にかかわること,海のしきたりに反することについては,他人の子供であろうと平気で殴りつけて叱ってきた。
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