海座頭

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海の中で海藻を握り締め,頭を下にして一気に身体を岩の下へと滑り込ませた。左手に海藻を握り,右手にオコシを持ち,岩の隙間から視線を外さないようにして身体を捻るとその生物の柔らかそうな部分がハッキリと見える体勢になった。 『擬態も保護色も関係ないな………こんだけデカけりゃ,見失わないだろ………』 次の瞬間,オコシの鋭く尖ったフックになっている部分でその生物を引っ掻けて,海面めがけて力いっぱい浮上した。手に伝わる感覚は蛸にしては軟らかく,思った以上に大きかった。 引き抜くようにして岩の間からその生物を一気に海面にあがると,近くにいた正人が驚いて大声をあげた。 「うわっ! デカ! なんだよ! それ!?」 俺の右手に纏わりつくようにしていたのは,真っ黒な得体の知れない塊だった。これまで見たこともない大きさの真っ黒でブヨブヨしたその塊は,オコシから手に伝わる感覚で蛸に違いないと思った。海面にあげた瞬間に死んでしまったかのように動かなくなり,その身体は異様に軟らかかった。 『ミズダコかな………?』 これまで見たことのない大きさの蛸に興奮して,正人によく見えるようにそれを両手で持って高々と上げた。 「正人! すげぇの獲ったぞ!」 しかしそれを見た正人は悲鳴をあげながら,必死に近くの岩場に上がろうと泳ぎ始めた。俺はなにを驚いているのだろうと,両手に持った蛸を降ろした。そして真っ黒な塊が海面にユラユラとしながら波に揺られて俺のほうを向いた。 [ねぇぇぇ………それぇぇぇ,すごく痛いんだんけどぉぉ………]
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