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真っ黒な蛸のような生き物は俺を睨みつけるようにして,ひどく聴き取りにくい低い声で人の言葉を発した。
「え………? なに………これ………?」
その瞬間,俺の意識が遠くなった。完全に意識が失われている訳ではなく,なんとなく意識はあるのだが自分でもなにが起こったのかわからなかった。
ゆっくりとその生物が俺の身体に纏わりつくと,そのまま海の底に引きずり込むようにしてつま先から真っ直ぐ沈んでいった。大量の海水を飲んだが,海水と同時にこの生物が俺の身体の中にまで入って来るのを感じた。微かに残る意識の中でこの生物が,静かに海の底へ俺を連れて行こうとしているのがわかった。
『なに………? これ………? どうなってんの………?』
怖いというよりも,なにが起こっているのかわからず身動きが取れないまま呆然としていた。3mも潜れば底に届くような場所のはずが,いつまで経っても底に辿り着かなかった。
『ああ……ヤバイな……俺……死んじゃう………』
そう思った瞬間,激痛で意識を取り戻した。そして,いままで経験したことのない痛みとともに一気に海面に引っ張り上げられた。
鋭く尖った黒い岩先から海を覗き込むようにして,正人が必死に俺の腕を掴んだ。それと同時に全身に激痛が走り,悲鳴とともに岩場に引き上げられたが,岩場に引き上げられてようやく左腕を厳ついモリが貫通しているのがわかった。
「ヤベェ……マジか……超痛てぇ……」
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