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正人は俺の意識があることを確認すると,岸に向かって両手を振って助けを呼んだ。すぐに岸にいた連中が異変に気付き,俺の腕をモリが貫通しているのを見て慌てて救急車を呼びに行った。
その間,正人は必死に海の中を覗き込み,なにかを捜しているようだった。そしてなにも見つからないと,俺のところへ戻り真剣な表情で囁くように話した。
「大丈夫か……? お前を海に引き込もうとしていた…あれ……なんなんだ? そいつを狙ってモリを突いたんだが,お前の腕を貫通しちまった。おかげでお前を引っ張り上げられたんだけど,あれ……相当ヤベェなにかだぞ……」
「なにかって………?」
「人のような顔をしていたけど,人じゃねぇ………お前を真っ黒い蛸の脚みたいな……毛の塊みたいな……よくわからないけど…なにかで海の底に引きずり込もうとしてやがった……」
「マジか………」
「俊輔,お前,あれの正体知ってるのか? なんなんだ……あれ……?」
「俺…蛸かと思って……オコシで引っ掻けた……」
正人は真剣な目で俺を見ながら,静かに首を横に振った。
「頭だけだったが……完全に人のものだった……蛸じゃねぇ………」
ひどく脈打つ左腕を抑えるようにして痛みに耐えながら,正人を見た。
「あいつ……オコシで引っ掻けられたのを,すごく痛いんだんけど…って,人の言葉で話したんだよ……。その瞬間,俺の意識が飛んで……気づいたら海に引きずり込まれてた……」
「マジかよ………」
「あいつ……もう,いなくなった……? 岩に隠れてないかな……?」
「ヤベェな……この岩場は俺らだけだ………。もうすぐ,お前を救助するために人が来るけど………」
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