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正人が立ち上がって海を見ていると,ほんの数m先に不思議な現象が起こっていた。まるで半紙の上に墨汁を垂らしたかのように,透明な海の上に真っ黒ななにかが広がっていた。それは半径約3mの楕円形で,波に揺られながら俊輔と正人がいる岩場から一定の距離を保っていた。
「俊輔……たぶん,あれがいる……」
「マジか……どこにいる?」
「目と鼻の先だ………たぶん,俺らを観察してやがる……」
俺は千切れるんじゃないかと思うほどの腕の痛みに堪えて,正人が指差すほうを見た。
「あれか………?」
そこには大きな丸い絨毯のような,真っ黒い染みのようなものが波に揺られていた。その異様な染みは決して景色に溶け込むことなく,まるで俺らを見張っていると主張しているかのようだった。
「ヤベェな…あんなの聞いたことねぇぞ。ってか……人の言葉を話すってなんだよ……」
「正人,もう少し身を隠せ………」
「それより俊輔,お前の腕,大丈夫か?」
正人に言われて腕を見てみると,大量の血が流れて岩場に血溜まりを作っていた。
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