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 僕は一瞬にして、直感的に恋に落ちた。彼女とは一言も言葉を交わしたことがないし、どんな性格なのかも知らない。彼女が卒業した中学校も、小学校も知らない。なにせ、まだ名前すら知らないのだ。それにもかかわらず、僕の中の何かが、“彼女に恋をするべきだ”と訴えかけていた。  思い切って声を掛けてみようと決心した瞬間、先に口を開いたのは彼女の方だった。 「あなた……入試のとき、隣の席に座ってた人よね?」  予想だにしない展開に焦った僕は、上手く言葉を発することができず、ただ黙って頷いた。そんな僕を見て、彼女はクスッと小さく笑う。 「今日も入試のときみたいに緊張してるの?」 「い、いや。そんなことはないよ……って、どうして入試のとき、僕が緊張してたってわかるの?」 「誰が見てもわかったわよ、あなたが緊張してるの。あんなにガチガチに固まってるんだもん」  彼女は呆れたような顔をして僕をみる。だけど、彼女のおかげで、とりあえず会話の糸口は掴めた。焦っていた気持ちも、ゆっくりと落ち着く。落ち着いて、今度は僕から会話を切り出した。 「名前、訊いてもいいかな?」 「宮野(みやの)理沙(りさ)よ。あなたは?」 「霧野(きりの)クイズ」  僕が名乗った瞬間、彼女は動きを止めた。どうやら、僕の発した言葉が名前であると認識できていないらしい。彼女は右手の人差し指を顎に当て、しばらく何かを考えるような仕草を見せてから、ようやく納得した様子でポンと手を打った。     
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