戦いと友と

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 今夜の月は天高く輝き、森の中とは云え、月の光がさっと差し込んでくる。カラスは丸い月を見上げていると、遠くから草を踏みつける足音が聞こえた。  カラスはその方向を訝るように振り向く。そっと置いてある剣に手を伸ばす。すると、薄暗い闇の中から、白い肌をした女の姿が見えた。それをよく目を凝らして見ると、その姿はメアリーだった。 「メアリー。どうしたの?」  カラスは立ち上がって、メアリーの方を向く。すると月の光がちょうどメアリーの顔をくっきりと映し出した。メアリーの目には涙が溜まっていた。 「大丈夫? アトラとなんかあったんじゃ……」  カラスは慌ててメアリーに寄り添うと、メアリーはかぶりを振って、 「違うのよ。今、アトラはすぐそこで待ってくれてる。カラス、やっぱり、あなたが唱えた和平は間違っていなかったわ」  言って、メアリーはカラスの肩に顔を埋めた。カラスは優しい手つきでメアリーの髪を撫でた。メアリーが、くぐもった声で、 「アトラ。あの子、随分昔からもう、一人きりだったみたい」  言って、嗚咽を我慢しながら、声を振り絞る。カラスはそれを聞いて、 「私も丁度、考えていたんだ。自分が今まで国畜としてやってきたことの罪深さを。誰にも裁く権利なんかないのに……。沢山の血を流してしまった。モンスターだけじゃない。抵抗するモンスターに殺された人たちだって」  そこまで言うと、メアリーは顔を上げて、涙を手で拭った。どうやらメアリーはアトラと色んな話をしてきたようだった。メアリーは涙声で続ける。 「そうね。アトラの寂しさを思ったら、私にはカラスもバニラもいたのに。もっとコラトゥーラにいるときにできたこと、あったと思う」 「……だから、私たちはもうこれ以上、絶対にアトラのようなモンスターを増やしてはダメだね」 「ええ。アトラは決して私たち人間を許してはいない。だけど、あまりに孤独に耐えすぎて、人間のことを分かっていないのはある意味良かったと思う。だから、明日からもアトラのこと、避けないでいてね」  言うと、メアリーは優しく微笑んだ。聖女の言葉にカラスも頷いた。  二人は微笑み合うと、手を振ってメアリーはアトラの待つ森の先へ戻っていった。  月夜の晩は、心までも鮮明に映し出すようだった。
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