79人が本棚に入れています
本棚に追加
「健康に悪いだ?そんなん俺たちの自己責任だろうがケチつけんじゃねぇよ。副流煙?知るか、気になるならそっちがどっか別の場所に行けばいいだろうがうっとおしい。ちょっとケムリが来るくらいでガタガタ言ってんじゃねえ。仕方なく妥協して喫煙所ってやつのところまで行こうとしたらうちのオフィスから遠いのなんの。喧嘩売ってんのか、ああ?」
「は、はぁ」
「いいか、煙草を吸うってのは、辛くて苦しい仕事のストレスを発散する手段なんだ。俺は何年も何年も汗水垂らして会社に尽くしてきてやったんだよ。その辛い仕事を耐え抜くために、煙草で一息つく時間が必要不可欠なんだ。辛くても文句言わずに真面目に働くのが美徳だった俺たちの世代はみーんなそれをわかってる。なのになんだ?年下の偉そうな上司に変わった途端改革だのなんだの……仕事中に煙草を吸いに行くのは禁止だ?ふざけんじゃねえ!!」
バンッ!と苛立ち混じりに壁を叩く男。籠自体がグラグラと大きく揺れた。さすがに崇も怖くなり、やめてくださいよう、と気弱な声をあげてしまう。
少年は相変わらず、小さく手足を丸めてエレベーターの隅で踞っている。あまりにも気の毒だった。大人の恫喝なんて、普通の子供なら怖いに決まっている。
「大きな声出さないでください……壁殴らないでください、怖いです」
「はっ、タマの小せぇガキは臆病だなぁ。昔の上司に比べたらこれくらいの叱責全然優しいもんだってのによ!……とにかく、非喫煙者の権利ばかり守って喫煙者の権利がちっとも守られない世の中にもの申したいんだ俺は!俺らが煙草を吸うのはストレスの発散と大事なコミュニケーション……情報交換のためだ。それなのに、たかが五分くらいの煙草の離席をサボりみたく言いやがって……これだから若い奴等はわかってねぇんだよ!!」
「は、はぁ……」
駄目だ、逆らったら余計面倒なことになりそうだ。
そもそもこんな長話を自分に聞かせてどうしろというのだろう。
そんな崇の心を読んでか、つまり!と男は声のトーンを上げた。
「煙草を吸えないのは俺にとっては死活問題なんだ、馬鹿にすんじゃねえ!さっさと俺を外に出せ、俺は一階の売店でいつもの銘柄を買うつもりだったんだよ!!」
どうやら、そこが結論らしい。ギラギラと目を光らせながら男は話を着地させた。
最初のコメントを投稿しよう!