<第三話~磯部崇・Ⅲ~>

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 男の子は天井をガサゴソと弄っている。開けられそうな切れこみは見つけたらしいが、なかなか指がひっかからず悪戦苦闘しているらしい。 「おい、どうだ?開きそうか!」  横柄な中年男は、少年を肩車したまま鼻息荒く言った。角度の問題で、男の子が何をしているのかまでは見えないのだろう。お前そこで息止めていてくれないかな、と内心ジト目になる崇である。イライラだけではなく、明らかに男が興奮気味なのが怪しいのだ。男が好きなのがダメとは言わないが、子供相手に露骨にハァハァするのはアウトだろう。イエス、ロリショタノータッチ!だ。 「す、すみません……!」  暫く呻いていたが、少年は疲れきったように腕を下ろした。 「引っ掛かりそうな突起はあったんですけど、何か引っ掛かってるみたいで……僕の力じゃ、開けられそうにないです」 「そうか。……まあ、仕方ないよ。ありがとう、頑張ってくれて」 「いえ」  下からなるべく笑顔を作って崇は言った。なるべく落胆した声にならないように努めたつもりだが、それでも伝わってしまったのか少年は露骨にしょんぼりしている。  ちっ、と舌打ちしながら中年男が少年を下ろした。使えねえなこのガキ、とでも言わんばかりである。それを実際口にしないだけマシではあるだが。 「腕力不足ってことは……俺なら開けられるかもしれない、けど」  ちらり、と崇は中年男を見る。男は露骨に嫌そうな顔をした。 「いくらなんでもお前みたいなデカい男を肩車できるか。そもそも生理的にきめーだろうが。何が悲しくていい年した大人の男を担がねぇといけないんだよ」  それはこっちの台詞だと言いたい。崇だってごめんだ、あんな煙草臭くて煩いオヤジの首を跨ぐなど考えただけでぞっとしてしまう。  そしていい年した男はダメだけど少年はいいのか。やっぱりショタコンじゃないか。――心の中で盛大に突っ込みをいれた崇だった。 「すみません、お役にたてなくて」  まだしょんぼりしている少年に、いいんだよ、と崇は笑顔を向ける。がっかりしたのは事実だが、こっちにもプライドはある。子供の前では頼もしい大人でありたいという気持ちがあるのだ。まあ、二十一歳の男なんて、まだまだ先輩方に言わせればガキの領域なのだろうけど。
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