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ウィィン。
「!」
エレベーターが、酷く緩慢な動作で――上昇を始めたのである。復旧したのだ、と楽観的に喜べる人間はこの場にはいなかった。明らかに動きかたがおかしい。ゆっくりすぎる。行き先表示のパネルも復旧していないし――そもそも自分達は、一階に向かっていたはずではなかったか。何故上に動くのだろう。
「な、何……?」
不安げに声を出す翼。残念ながら、彼を安心させてやれるような答えは何一つ持ち合わせていなかった。崇も、きっと奥平も、何が起こったのかまるで想像がついていないのである。
ゆっくり、ゆっくり、ゆっくり。
三つの沈黙を乗せて、狭い籠は昇っていく。そして。
ガコン。
再び、停止した。多分九階に停まったのだ、と崇は思った。ドアを上手くこじ開けることができれば、脱出することも可能かもしれない。九階には何があっただろう。そう思いながら、そろそろとドアに近付こうとした、その時だった。
トン、トン。
「……へ?」
まるで、トイレのドアでもノックするように――誰かがドアを叩く音が聞こえてきたのである。
「だ、誰……?」
「も、もしかして救助の人なんじゃ」
「おい!」
翼が口にした瞬間、弾かれたように奥平が飛び出した。
「おい、そこにいる奴!誰でもいい、助けてくれ!!閉じ込められてるんだ、頼むっ!!」
バンバン!と奥平がドアを叩く。あんまり力を入れて叩いたら壊れるんじゃ、と崇が心配になった直後、わかった、というようにバンバン!とドアを叩く音が返ってきた。
一気に、希望が沸いてくる。本当だ、本当に救助が来たのだ!静かなのもきっと気のせいだった、自分達が閉じ込められていることに気付いて貰えてないだけだったに違いない!
「やっ……」
やったあ!と年甲斐もなく崇が声を上げようとした――その時だった。
バンバン。
バンバンバンバンドンドンドンドン!
ドアを叩く音が乱れ――大きくなる。そして、次の瞬間。
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