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「おい」
奥平が低い声で呼び掛けた相手は、倒れた崇ではなかった。
「そこの、子役のガキ」
翼だった。失禁した己の姿を顧みる様子もなく。ぐんぐんと翼に近付いていく。そしてとんでもない行動に出た。――カチャカチャと、自らのベルトを緩め始めたのだ。何をする気なのか。目を剥く崇の前で、奥平は。
「女がいねえんじゃ仕方ねえ。この際お前でいい。銜えろ」
何を言っているのだ、こいつは。あまりのことに崇の頭はオーバーヒートする。恐怖で狂いそうなのはわかる。それで失禁してしまったのもお気の毒だとしか言いようがない。だが、それでなんで、いきなり赤の他人にフェラチオをしろなんて言い出すことになるのだ。勿論女性が相手でも論外だが――よりにもよって年端もいかぬ少年に、である。
信じられない、そんな気持ちが崇の行動を遅らせた。翼の悲鳴が上がったところでようやく我に返る。奥平は崇に背を向けて立っている。ここからではその股間の汚いものは見えないが――翼の顔が青を通り越して白になっているあたり、逸物を露出させたのは間違いないだろう。もしかしたら既に、気色悪いまでに天を向いているのかもしれない。
「や、やめろ!何してんだあんた!犯罪だぞっ!!」
見過ごせるはずがない。慌てて背後から羽交い締めにしようと飛びかかるも、奥平の力はあまりにも強かった。
「邪魔すんじゃねえ、クソガキ!!」
一瞬にして吹き飛ばされる。全身を強かに打ち付けた。痛い。呻いていると、ずんずんとこちらに歩いてくる大柄の男が見える。
社会の窓から恥ずかしいものを露出させたその姿がはっきりと見えてしまい、吐き気を覚えた。人間として、もっともあってはならない姿がそこにあると言っても過言ではない。
奥平のことを、初見で“男性向け漫画に出てくるモブレ役のモブみたいだ”と思ったことを思い出した。人間が一番堕ちてはならぬ下衆の姿。まさか現実になるだなんてどうして予想できただろうか?
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