<第四話~磯部崇・Ⅳ~>

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「俺は!お前みたいな!生意気な若造が大嫌いなんだ!」  ガツン!と頬骨に拳がめり込んだ。痛い、と感じるよりも前に今度は鼻骨が潰される。目の前が真っ赤になった。だらり、と鼻血が垂れていく。それでも容赦なく男は左右の拳を交互に振り抜いて崇の顔を殴り続ける。 「若いくせに!会社の一番大変な時期も知らないくせに!バブルが崩壊して俺たちがどんだけ苦労したと思ってんだ!?リーマンショックで走り回って会社を建て直した功労者は誰だと思ってんだ!?ナメてんじゃない、ナメてんじゃねえぞ!!」  やめてくれ、と言おうとしたつもりだった。開きかけた口に拳があたり、ぼろりと折れた歯が血と唾液ととに溢れ落ちる。  このままでは殺される。嫌だ、死にたくない――どうして、自分が。 「お前みたいなクソガキは死ね!俺がこんな目に遇ってんは全部お前らのせいだ、お前みたいなのがいるからエレベーターから出られないんだ、助けが来ないんだ!反省しろ、地獄に堕ちて許しを請え、ガキが!クソガキがあっ!!」  ゴリ、と。奥平の右ストレートが崇の右眼を直撃し――そのまま後頭部が壁に思いきり叩きつけられた。瞬間、何かが潰れるような――砕けるような音ともに。ぶつん、と崇の視界が真っ暗になる。 ――ああ、俺……俺こんなところで、死ぬんだ……。  そして、礒部崇の意識は――そこで途絶えたのである。  結局何が起きているのかも知らず、何故自分が殺されるのかもわからないまま。  後に起こる出来事を思えば――余程幸せな末路だったのかもしれないけれど。
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