『気怠い午後の出来事』

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エアコンが空しい抵抗をしている部屋の中で、専業主婦の雅美は溶けかかっていた。 史上稀に見る酷暑だった。 形を保てなくなってきている身体にともない、心の方もだるだるとだらけきっていた。 「こぉおんな、暑さのなか学校行かなきゃなんない子供もたぁいへんよねぇ」 雅美が間延びした声を漏らしたとき電話が鳴った。 アメーバのように伸びながら、ようよう雅美は家電に取りつく。 「もしもし、坂巻さんかい?お宅の息子、誘拐したぜ」 「ゆうぅかいぃ?そりゃ融解もするわよ。このぉ、暑さだものぉ」 電話が溶け流れて、雅美の身体と混じり合った。 太陽すらも溶け落ちそうな、暑い夏の、午後の出来事だった。
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