誰かいる

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「もう六時くらいでしょうか」 「俺が家を出たのが五時半くらいだから、たぶんそれくらいかな」 「そうですか……。ごめんなさい。お夕飯の材料は買ってあるのですが、準備が遅くなってしまうかと」 「買ってきたの、今日食べなきゃいけないものとかある?」 「いえ。肉類を冷凍すれば大丈夫なはずです」 「じゃあその食材は明日に回して、今日はコンビニでお弁当でも買おう。……何にしようかな」  二十四時間営業の庶民派小売店に思いを馳せながら「ふふ」と優雅に微笑む横顔は、素直に綺麗だなと思う。男性でありながら、女性も羨む美貌の人。  コンビニエンスストアに入店した途端に、店内のお客さん数人からぎょっとした視線と、「らっしゃーせー」店員さんのやる気の無い声をもらった。  私はいそいそとチルド食品の棚を目指す蓮見さまの二歩後ろを歩き、途中でカゴを取った。  ガラスや蛍光灯や食品類のパッケージが囲む無機質な店内で、蓮見さまの着物姿は浮いている。 「…………。」  彼は下段手前の丼ものに目を止めた。 『とろとろ卵のデミグラオムライス丼』 独自の製法で仕上げた半熟卵の下には、鶏肉たっぷりのチキンライスが埋まっているそうだ。新商品のシールが雑に貼ってある。 「みや、明日の夕食ってなに?」 「肉じゃがと納豆の卵とじです」 「たまご……、んー、微妙だな。今日は別のにしよう」 「卵は何にでも使えますので、後日でも、別のものにできますよ。今日はオムライス丼にしても、」 「みやの卵とじ、好きだから、今日は卵は止めとく」 「……ありがとうございます」  蓮見さまは悩みに悩み、『アボカドと海老のパスタサラダ(明太子ソース)』を手に取った。  私は『チーズ入りハンバーグステーキライス大盛り』をカゴに入れ、蓮見さまが新たに目を止めた『濃厚チョコレートのトライフル』を一つ迎え入れ、レジに向かった。
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