78人が本棚に入れています
本棚に追加
コンビニエンスストアは、十字路の一角を広く占めている。太い車道を一本挟んですぐに緩い坂があり、そこを上がっていけば、徐々に緑が深くなっていく。
その先にあるのが、私達二人が暮らす屋敷だ。
街の中央を陣取る小高い山一つが、如月家の私有地だ。
屋敷一つのために、コンクリートで念入りに固められた道を歩いていく。
この山道では、背の高い木に混じって南天の木が目立つ。野生のくせに、冬になれば毒々しいほど鮮やかな赤い実をつけるらしい。
大人が横になって五人同時に潜れるほど大きな山門――の横に造られた脇戸を抜けて、中に入る。広大な敷地を、屋根のある築地塀で囲った、二人で暮らすには大袈裟すぎる家。
風が嫌に生ぬるい。
夕立にしてはしつこい雨だ。
雨粒が跳ねる白い敷石を踏みしめて、屋敷の玄関に入った。
大きな靴箱を見た。蓮見さまの学校用の革靴と、私の草履しかなかった。この靴箱が最大容量いっぱいになったところを見たことがない。
「観月と名取、もう帰ったんだ」
「そうらしいですね」
白いスニーカーと履き古した草履がないから、そういうことだ。
代わりに、取次ぎの床には二枚のタオルが畳んで置いてある。
蓮見さまの口ぶりからすると、ここを出る前……十七時半頃にはあの二人もまだいらっしゃったのだろう。いつもは十六時頃には帰ってしまうのに。
「もしかして、私が帰ってこないから、お二人を残らせてしまいました?」
あの二人は蓮見さまを一人にしたがらない。だから私が帰宅するまで待っていたのかもしれない。
「気にしないで。あの二人が勝手に居残っただけだよ」
彼は当然のように言った。
彼は私や外の人に向ける口調こそ柔らかいけれど、お身内の扱いはとことん雑なのだ。冷たいと思う。けれどそんな感想を言う資格も、私にはない。
「……今度二人にお会いしたら、声をかけておきますね」
私はタオルを一枚蓮見さまに手渡して、もう一枚で自分の髪を拭く。
「別にいいのに」
彼は自分の身を拭うのもそこそこに、私の手からタオルを奪って頭から被せてきた。私の長い黒髪を挟んで、水気をタオルに含ませて、そうしながら満足そうに目を細める。
最初のコメントを投稿しよう!