誰かいる

7/13
前へ
/175ページ
次へ
 コンビニエンスストアは、十字路の一角を広く占めている。太い車道を一本挟んですぐに緩い坂があり、そこを上がっていけば、徐々に緑が深くなっていく。  その先にあるのが、私達二人が暮らす屋敷だ。  街の中央を陣取る小高い山一つが、如月家の私有地だ。  屋敷一つのために、コンクリートで念入りに固められた道を歩いていく。  この山道では、背の高い木に混じって南天の木が目立つ。野生のくせに、冬になれば毒々しいほど鮮やかな赤い実をつけるらしい。  大人が横になって五人同時に潜れるほど大きな山門――の横に造られた脇戸を抜けて、中に入る。広大な敷地を、屋根のある築地塀で囲った、二人で暮らすには大袈裟すぎる家。  風が嫌に生ぬるい。  夕立にしてはしつこい雨だ。  雨粒が跳ねる白い敷石を踏みしめて、屋敷の玄関に入った。  大きな靴箱を見た。蓮見さまの学校用の革靴と、私の草履しかなかった。この靴箱が最大容量いっぱいになったところを見たことがない。 「観月と名取、もう帰ったんだ」 「そうらしいですね」  白いスニーカーと履き古した草履がないから、そういうことだ。  代わりに、取次ぎの床には二枚のタオルが畳んで置いてある。  蓮見さまの口ぶりからすると、ここを出る前……十七時半頃にはあの二人もまだいらっしゃったのだろう。いつもは十六時頃には帰ってしまうのに。 「もしかして、私が帰ってこないから、お二人を残らせてしまいました?」  あの二人は蓮見さまを一人にしたがらない。だから私が帰宅するまで待っていたのかもしれない。 「気にしないで。あの二人が勝手に居残っただけだよ」  彼は当然のように言った。  彼は私や外の人に向ける口調こそ柔らかいけれど、お身内の扱いはとことん雑なのだ。冷たいと思う。けれどそんな感想を言う資格も、私にはない。 「……今度二人にお会いしたら、声をかけておきますね」 私はタオルを一枚蓮見さまに手渡して、もう一枚で自分の髪を拭く。 「別にいいのに」  彼は自分の身を拭うのもそこそこに、私の手からタオルを奪って頭から被せてきた。私の長い黒髪を挟んで、水気をタオルに含ませて、そうしながら満足そうに目を細める。     
/175ページ

最初のコメントを投稿しよう!

78人が本棚に入れています
本棚に追加