誰かいる

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 自分の髪よりずっと丁寧に扱ってくるから、困ってしまう。  その優しさを他にも向けてあげればいいのに。  私のお世話を焼きたがるのは習性だと、以前に本人が言っていた。 「さて、みや」 彼の声に、私は「はい」と答えて、 「っ……!?」  タオルごと頭を押さえられて、息を詰まらせた。彼の大きな両手が、私を強く固定する。  目を逸らすな。彼の瞳にそう命じられて、視線の一つも動かせない。 「は、すみ、さま」  彼の紺碧の瞳孔に捕らわれて、私の奥の奥、速くなった脈拍、お腹の底すら見透かされているような心地になる。  彼の言い付けを破ってしまったから、これは罰なのかな。  何がしたいんだろう。私の何を見ているのだろう。  硬直して動けない私は、呼吸をしているのかもわからない。 「――ふうん」  彼は得心したとばかりに微笑み、数秒の拘束を解く。 「前の件のこともそうだけど、みやは変なのに好かれやすいんだから気をつけなよ」 「変なの、って」 「言いたくなったら言えばいいから。……でも、できれば手遅れになる前に教えてね」  肩がびくついたのを、彼は見なかったことにしてくれた。  長い縁側が主要通路で、家の端から端に向かうには想像以上の道のりがある。平屋の古式ゆかしい家屋である。  縁側と一言にしても、内縁だとか廻縁だとか、名称は色々とあるらしい。  私は建築の用語には興味がない。自室の障子を開けて、二歩ほど歩いて真正面の硝子戸を開けて、腰掛けてひなたぼっこができる空間とだけ認識している。  二人で住むには大きな家だ。  広さだけで言えば民宿を経営できる規模だけれど、ここに他人が入り込むことを考えるだけでもぞっとする。私は彼に気を配るので精一杯なのだ。  晴れたけれど、昨日の雨のせいで湿気がすごいことになっている。私の癖毛にこの気候はとことん合わないから、いっそばっさり切ってしまいたい。だけど断髪の許可が下りない。それだけは断固として許してくれない。だからたぶん、今年もこのままなのだろう。  エプロンを脱ぎ、結っていた髪を下ろして、蓮見さまの部屋に向かった。  障子の前に立つ。 「蓮見さま、おはようございます」  中から「おはよう。入っていいよ」と声が返ってくる。  障子を開けると、中から微かに白檀の香りが漏れ出してくる。
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