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「そういうのは、あんまり良くないと思うけれど……」
「みやちゃんはお固すぎっ」
腰に手を当てて拗ねて見せる友人に、私は曖昧に笑った。
「ごめんなさい。でも、食事の支度がありますし……」
「いっつもそれ。もー、そんなんで人生たのしいのっ?」
余計なお世話だと思う。だけどそれは言わない。友人の口調は無神経そうに聞こえるけれど、その表情は真剣にこちらを心配している。活発そうなショートカットがいつもぴょんと外側を向いていて、丸い眼鏡が可愛らしい友人――奏多さんだ。
いつも疲れないの? なんて聞いてくる。
そんな風に言われるほど、私は疲れているように見えるのかな。
「そこまで忙しくしているつもりはないのですけれど……」
客観的にそうでないのなら、もっと疲れていないように見える努力をしなくちゃいけない。花も恥じらう高校二年、十六歳。ここ白雪女学園――通称『白女』と呼ばれる有名私立の女子高校の制服は、白くてお上品で可愛いと有名だ。その上にのっかる顔が疲れていたら、若さも制服も台無しになる。それは良くない。
――それで、えっと、何のお話をしていたのでしたっけ。
たしか、町はずれの洋館に行きたいとか。
「奏多さんは、どうしてもあのお屋敷に行きたいと?」
「そだよっ!」
元気に頷かれた。
町はずれにある大きな洋館。たしか一ヵ月後には取り壊しが決まっていた。そこで肝試しをしたいと、彼女は言うのだ。高校生にもなって未だ衰えない好奇心には驚くけれど、羨ましいとは思わない。
奏多さんはいわゆるオカルトマニアというやつだ。
まだまだ残暑の厳しい時期。少しくらい涼しくなりたいと主張している。
「……だめ?」
わざとらしいほど潤んだ瞳で迫られても、どうしよう。ああいうところって、ちょっと苦手なんだけどな。
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