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誰かいる
外壁は立派なものだけれど、元は閉じていたはずの門は人一人分の隙間を開けていて、その周辺に赤く腐った鎖が落ちている。何人もの怖い者知らずが肝試しに出入りしたのだと思う。ここまでくると観光地の一種じゃないかな。
良い雰囲気ではなかった。
「本当に行くんですか?」
「とうぜんっ」
奏多さんは、小さな体を門の隙間に滑り込ませていく。それを追いかけようとして、
「…………。」
洋館を見上げた。蔦が絡みついていて、なるほどお化け屋敷の様相だ。
十七時近いとはいえまだ陽があるけれど、あの内部は陽も入らずに薄暗いのだろう。気絶したままそこに立っているという風情の建物が、夏の日差しの下、亡霊のようにそこにある。足元に濃い影を作っている。
まるで今の私みたいに。
「みやちゃーんっ!」
「……は、はいっ」
一歩踏み出した。
――ダメだよ。
――行っちゃダメ。
私を引き止める声を思い出したけれど、目の前で私に笑いかける彼女を放ってはおけなかった。だってなんだか、今の彼女を置いて帰ってはいけない気がするのだ。
玄関には鍵がかかっていなかった。
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