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ここの金持ちだよ
『……怖く、ないんですね』
と言われた時、奏多は「あれ?」と引っかかりを覚えた。
友人は奏多に簡単に体質のことを話し、相手がそれを信じてくれるかどうかよりも、まず「恐怖の有無」を聞いてきた。世間一般で「特殊能力」がどんなに胡散臭くて荒唐無稽扱いされているのか、この友人はきっと知らないのだと思った。
能力を疑われた経験がないのだろう。
肯定されてきたのだろう。
友人は世間慣れしていないのだ。
友人は多くを持ちながら、常に後ろに立っていた。クラスの誰より、ひょっとすると人類すべてと比べても、自分より価値のない人間はいないと考えているのかもしれない。
友人の目線はよく下に向いていた。
奏多も一度だけ真似をして地面を見て歩いたことがあったけれど、見つかるのは道端に捨てられたアルミ缶だとか、マナーの悪い飼主が残した犬の糞とか、そんな汚いものばかりだった。
汚いものを見つけるよりも、前を向いた方が建設的だ。
そしてできるならばもうちょっと視線を上げて、地平線なんかも通り越して、空を見てくれたならいいのに。そこには簡単に綺麗なものが見つかるのに。
見つかるはずなのに。
ある時夕焼けが綺麗だねと言ったら、友人は「そうですね」と返してくれた。それだけだった。まったくもって味気ない。
彼女は綺麗だけれど、雪の下で凍った蕾みたいだ。踏まれでもしたら二度と立てないだろうから、自分が守ってあげなければと思ったのだ。
奏多にとって、形栖みやは庇護の対象だった。
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