和解

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  「ブラック、貴方もいつかは己の名に意味を見い出せる日が来るかもしれない」 「……どうだろうね」 「私の部下達が貴方の名を聞いて顔を歪めた事に、貴方は耐えたわ。それは、彼が隣に居てくれたからでしょう? あの頃の貴方なら、その態度に耐えられずに激昂して……部下を全員半殺しにしてたわ」 「耳に痛い過去は忘れて欲しいんだが」 「ホホホ、黒歴史ね。でも、そう思えるのも、貴方が成長したから……これからが楽しみね。あの子と歩む貴方がどういう答えを出すのか……」 「シアン……」  相変わらず訳の解らない単語を出す相手。  けれども今は怒る事も出来ずに、ブラックは頭を掻いた。  なんだか面映ゆいが、これが親と話す時の気持ちなのだろうか。今まで「母親」と言うものと接した記憶の無かったブラックにとって、シアンの見守るような言葉は何とも言えない気持ちにさせた。 「ブラック。いつか貴方は全てをあの子に話すのでしょう。……だけどね、恐れる必要はないと思うわ。だって、あの子は優しすぎるくらいに優しいもの」 「……そうだね」  確かに頷くと、シアンは再び立ち上がってブラックに近付いてきた。  そうして、ブラックを見上げ、だらしなく無精ひげを伸ばした頬に手を添える。 「ブラック・バイオレット・アーテル・ブックス……三つの真名を持つ異端の者。例えその名が恥じる物であろうとも……あの子と共に、生きなさい。貴方にだって幸せは訪れるべきだわ」 「シアン……」 「この依頼……失策だと思った私を許してね。今は、貴方と彼を引き合わせて良かったと思っています。……ツカサ君と貴方が巡り合えて……本当に良かった」  誰かに、認めて貰いたかった。  心優しい彼と共にいる事は、正しい事なのだと。  ……だからだろうか。  ブラックは――――流れる涙を、押さえられなかった。 「あらあら、随分と泣き虫になったのねぇ。……でも、それはとても良い事だわ。さあ、私に……このお婆ちゃんに、貴方とツカサ君の事を話して頂戴。貴方がどれだけ変わったのか……私も知りたいの。それから、考えましょう。黒曜の使者が、この世界で平穏に生きていける方法を」  
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