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シアンさんは、人を使役する事に物凄く長けているんだろう。相手の勢いに押されて何でも受け入れているように見えても、その実、全ては彼女の思い通りに動くように計算しているのだ。故に、彼女は慌てない。何でも受け入れて流す。
つまり、彼女は何を言っても暖簾に腕押しを貫く究極の受け身エルフなのだ。
彼女に出会ったが最後、最終的には誰もが言う事を聞く羽目になる。
ブラックが彼女を苦手と公言するのは、自分の思い通りに動けないからってのと……毎回手玉に取られてムカツクからなんだろうなあ。
「まあでも受けちゃったもんはしょうがないよ。それに俺は遺跡初心者だし、玄人が同行するってんなら心強くもあるし」
「そりゃそうだけどさあ……調査隊の行先って……下水道だろ?」
うんざりしたような顔のブラックが、ベッドに倒れ込む。
ぐう、その気持ちは解らないでもない。でも下水道じゃないぞ、地下水道だ。
シアンさんに提案されたのは、『未踏のままである地下水道の中枢部探索』……この古代都市ラッタディアの下を流れる暗渠――地下水道に存在すると言う遺跡を調査する一団に加わるという物だった。
地下水道に遺跡? と最初は思ったけど、良く考えたら古代の下水道なんてわりとロストテクノロジーだ。ライクネスはともかく、アコール卿国には下水道による汚水の排出システムなんて無かったから、失われた技術には間違いないだろう。
下水道が古代ダンジョンって、どっかで聞いたような話だが……それは兎も角。
この点から考えれば、地下水道も古代の遺跡と言って間違いはない。
だから、下水浚いという訳では無いんだけどね。うん。
しかしブラックは納得いっていないようで、ベッドの上でじたばたしていた。
アンタ、シアンさんと会ってから精神年齢低くなってませんか。
「ぬううぅ……やっぱり納得できない……。どぶ浚いなんてどう考えても嫌がらせじゃないか。ツカサ君、僕もう一度シアンの所に行って来るよ」
「シアンさんって【世界協定】の仕事で忙しいんじゃないの?」
「忙しいもんか。シアンの通常業務は世界の監視だけだよ? 予知能力以外は部下にやらせりゃ事足りる。予知だって不意に来るものなんだ、きっと今頃茶でも飲んでゆっくりしてるさ。そうに違いない」
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