和解

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   そう、全てはシアンの思い通り。  ブラックが怒り心頭でここに来るのも、彼女の策略の内だった。 「不快な事をばら撒く……? 私、そんな事したかしら」 「クロッコを呼び出した事や、僕の名前を彼らの前でわざと呼ばせた事。それに……クロッコの出過ぎた行為に対して、怒らなかったよね。僕の記憶では、君は物事が正しく流れないのを何より嫌ったはずだけど」  睨み付けながら吐き捨てると、シアンは意外そうな顔をして目を瞬かせていたが――――やがて、苦笑したように微笑むと、座っていた椅子に改めて深く腰掛けた。 「そうね、少しは打算が有ったわ……それは認めましょう。だけど、クロッコの事は別の話よ。あの子に関しては色々あってね……。あの子は人族……特に、貴方を嫌悪している。それに、あの話はツカサ君の前ではあまり言えない話だから、あえて問い質すのを避けたの。伝達役に選んだのは失敗だったわ。……色々とごめんなさい」  そう言って、深く頭を下げるシアン。  真摯な態度であることが余計にブラックの腸を煮やしたが、そこで激昂するのも最早馬鹿らしいと思い直し、ブラックは深く溜息を吐くだけに止めた。 「……何故クロッコを呼んだ?」 「黒曜の使者は、ただの災厄ではないと教える為よ。事実を見てまだ驕るほど彼は愚かではないわ。ツカサ君を一目見れば、彼を抹殺しかねない考えを改めると思ったのよ。今となっては、ツカサ君を殺す方が寧ろ危険な事になりかねないし……私も、無抵抗な彼を殺すのはどうかと思ったから」 「確かに、ツカサ君を見れば誰だって殺すのを躊躇するだろうけど……」  そう上手くいくだろうか、とブラックは顔を顰めた。  ――かつて神族に災厄の権化と恐れられた、黒曜の使者。  【六つの神の書】に記され、かつて歴史の英雄達が対峙したというその存在は、今を生きる神族達が最も恐れる存在だった。  そう、正体も力の底も知れぬ化け物は、この世で最も恐ろしい。  ブラックが昔シアンから聞いた黒曜の使者の話も、この世界で起こる災害と同様の「避けられぬ超自然的なにか」と解釈されていた。彼女の話によれば、神族は今現在も研究を続けているらしいが、それでも結論は「制御できない恐るべき存在」とされ、滅する事を目標としていたのだ。  
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