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だが、実際現れた災厄は――――善良な異世界の少年だった。
この少年を見れば、聡い者はすぐにシアンの思惑に気付くだろう。
彼を殺さずに置いて、この世界に有益な存在にしたいという思惑に。
「しかし、人族を見下す耳長根性丸出しのあの若造が納得するかね。曲解を重ねてとんでもない事を言いだすんじゃないか。……言っておくけど、ツカサ君に何か危害を加えるような事が有れば……僕は容赦なく君の部下を殺すよ」
あの幼稚で狡猾な男ならば、突飛な行動に出かねない。それが正義感からの行動でも、ツカサに害が及ぶならブラックにとっては悪意になる。
睨み付けるように見る相手は、そんなブラックの怒りにまた笑みを漏らした。
「ふふ、そうなれば仕方ないわね……好きにおやりなさい。……だけど……本当に変わったわね、ブラック」
「なにがだい」
「色々と、よ。昔の貴方は誰かに執着なんてしなかった。誰かに対して笑う事も、気遣う事も、なにもしなかった。……だけど、今は違う」
「何が言いたい」
はっきり言え、と目を険しく細めるブラックに、シアンは少し体勢を整える。
そうして……笑みを収め、どこか怜悧さを感じさせる表情で、口を弧に歪めた。
「かつて、黒曜の使者と呼ばれた者であったとは……思えないわね」
美しい声が殊更強く吐いた台詞に、ブラックは瞠目する。
「今、更……」
「そうね、今更だわ。だけど……あなたは確かに【黒】の力を手に入れた。歴史上一人も存在しなかった、【紫月】と【絶無】を手に入れたと言うグリモアの中でも異端の者……ならば貴方こそ黒曜の使者と呼べる者なのではないかと、世界の賢者全てが貴方を恐れたわ。あの時、貴方が確かに災厄の権化だったのよ」
「やめろ、その話はするな」
「導きの鍵の一族は正しかった。貴方の名をそう呼ぶべき事に決めて縛めた貴方の家は賢明だったわね。……だけど、まさかその恐怖の王が、災厄の力を手に入れたなんて……」
「シアン」
「一時期黒曜の使者と称号を頂いた貴方が、本物の黒曜の使者の力を手に入れた……それが何を意味するか。私には」
「シアン!!」
半ば発狂するかのような叫び声を発したブラックに、シアンは口を噤んだ。
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