和解

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   ――暫しの沈黙に、部屋が満たされる。  徐々に宵闇に飲まれ始めた部屋が二人の表情を隠し、ようやくシアンがゆっくりと腰を上げた。そうして、水琅石のランプに水を入れ明かりを灯す。  再びお互いの顔を視認できるようになって、ブラックは明確な殺意の籠った目でシアンを睨み付けた。 「……言い過ぎたわね、ごめんなさい。だけど、今の状況は私にとって予想外だったの。だから……貴方を激昂させて本音を聞き出そうとしていました。しかしそれは随分品のない行動だったわね……本当に申し訳なかったわ。貴方は変わったのに……私は未だに足踏みをし続けているみたい」 「…………予想外? お前にもそんな事があるのか」  訝しげに問いかけたブラックに、シアンは苦笑する。 「知っているでしょうに、意地悪ね。私の予知は大きな出来事しか感知できない。その未来は今足掻けば変わる事も有る……その程度のものよ。だけど、黒曜の使者……ツカサ君に関しては、本当に私の力が働かないの。あの子は災厄の象徴、大きな出来事であるはず。だけど……私は、貴方とあの子が手を結ぶ事なんて予測すら出来なかった」  シアンは、この世界でたった一人の予知能力を持つ特殊な神族だ。  彼女が言っているようにその予知は限定的なものでしかないが、しかし、予知の結果は余程大きな動きが無ければ変わらない。それ程に正確なものなのだ。地震も大火も噴火も確実に予知してきた彼女の能力は、充分に信頼に値するものだった。  現に、シアンのツカサに関しての予知は完璧だ。  予知を裏付けるように、ツカサ自らが捕食者の森に落ちてきたと証言している。ならば、ツカサとブラックが一緒に行動する事を予測できなかったと言うのは些か妙ではないか。  ツカサが予知に現れる程の「巨大な力の事象」なら、その動きは彼女に伝わって然るべきなのに。 「予知できないって……どういう事だ」 「解らない。予知能力は衰えてないわ、寧ろ前よりも正確になっている。けれど……あの子の事は、最初の出現以降どうしても感知できないの。もしかしたら異世界の使者という性質が予知の邪魔をしているのかもしれない」  この世界の人間には、理解できない存在。  そう思った刹那――ブラックは、背筋に冷たいものが走るのを感じた。  
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