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「自分の下衆さを恥じるくらい色々と……ね。彼と……ツカサ君と出会って、私はようやく貴方が彼と行動を共にした理由を理解したわ。……彼は、本当の意味での【器】なのね。……誰にとっても、なくてはならないもの。そして、誰に対しても姿を変えて受け入れようとする稀有な【器】……そんな子を殺せる訳ないじゃない。私はそこまで愚かじゃないわ」
「…………」
「そんな彼が何故【災厄】に選ばれたのか、私には解らない。だけど……彼を見ている内に、私も知りたくなった」
「知りたい?」
なにを、と片眉を歪めたブラックに、相手は肩を揺らした。
先程の苦笑はどこにもない。ただ、その表情にはどこか吹っ切れたような清々しさが浮かんでいた。
「私は今まで、姿も知らない存在に怯えていました。けれど、その恐ろしい存在を目の当たりにすると……今までの事が疑問に思えて来たの。何故【黒曜の使者】が災厄とされ、恐れられてきたのか。何故、神と同じ【異界の者】がその役目を負うのか。そして、どうしてその破壊の所業が歴史に残されていないのか……。それに……彼が異世界に連れて来られた理由が本当に破滅の為というのなら……これほど残酷な事は無いと思ってね」
確かに、そうだ。
どう逆立ちしたって、あの心優しい少年には同族を殺す事など出来ないだろう。自分の中に在る力にだって、未だに臆病なくらい慎重なのだ。
人を殺せる術を覚えても、そんな事に考えも至らず、人を癒す薬を作って笑顔でブラックに話しかける。彼の根本には、相手を殲滅するという概念自体が存在しないのだ。そんな少年が、人を殺すことになってしまったら……。
(考えるだけで、地獄だ)
思わず顔を歪めるブラックに、シアンは再び嬉しそうな笑みを浮かべた。
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