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「本当に変わったわね、ブラック」
「……何度言われても、返事のしようがないんだけど」
「ふふ、そうね。でも、もしかしたら……それは意味がある事なのかもしれない」
「……?」
「貴方が“本当に必要な事”を学び始めた。心を持った脆弱な【災厄】が、この世にあらわれた。それは……黒曜の使者が破壊だけを目的としてこの世界に送られたのではない証拠になる。だから……私は協力してみたい。あの子が何者なのかを知りたい。もしかしたらこれは……この世界にとって必要な事なのかもしれないから」
「……よく、解らないんだけど」
この老女は、いつも規模の大きい事を言って自分を煙に巻く。
だが、今ブラックの目の前にいる相手は、過去に見て来た姿とは違っていた。
何事にも関せず、全てを受け入れながらも流していた存在。なのに、今の彼女は自分から何かを知りたがっている。
「……お前も少し、変わったんじゃないか?」
思わずそう言うと、相手は照れくさそうに肩を竦めた。
「そうかも知れないわね。……でも、仕方ないじゃない。あの子…………ツカサ君は、面白い子だし……何より、貴方を変えてくれた子だもの」
「親みたいなことを言うね」
「あら。これでも私子供がいるのよ。貴方の事だって本当に心配していたわ。……だからかしらね。私……あの子の事だけは、どうしてもきちんと答えを出してあげたくなるの。出来れば……貴方達が幸せになれるようにって」
「…………まったく、どうなってるんだか」
忌々しいとでも言いたげに、溜息を吐く。
だが、実際の所ブラックはそれほど嫌な気分ではなかった。
寧ろ清々しいと言ってもいいかもしれない。それほど心が軽かった。
別段、シアンの変化に思う所が有ったのではない。心が軽くなったのは、ツカサによって少し考え方が違って来た相手を見て、自分は確かに彼に正されているのだと顧みたからだ。
やはり、自分はあの頃のみじめな存在では無くなっている。
ツカサに受け入れて貰えたから、自分はここで確かに立っていられるのだ。
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