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シアンが、こんなに自分の事を考えてくれているとは思わなかった。
長い付き合いだ。嫌でも判ってしまう。
彼女のこんなに感情的な声は、策略から来るものではないのだと。
本当に自分の事を考えて、心の底から喜んでくれている声なのだと。
だから、嫌とは言えなかった。
「お前も……変わっていたんだな……」
「ふふ、女に何度も『変わった』と言うのは失礼よ。そう言う所は昔と変わらないわねえ、ブラック。……貴方は少しデリカシーのお勉強もしなきゃだめよ。じゃないと、ツカサ君が可哀想」
「また訳の解らない事を」
そうは言うが、何故か怒れない。
ブラックが犯した罪を知っていてもなお、彼女は自分の幸せを応援してくれる。そんな思いが、ブラックの心を温かくさせた。
先程まで毛嫌いしていたのに、自分でも調子の良い事だと自嘲したくなる。
けれども、これがもし「母親」というものの暖かさなら。
自分の背中を押してくれる温かな存在だと言うのなら、浸っていたかった。
何故ならこれは、間違いなく……ツカサがくれた「切っ掛け」なのだから。
(これじゃ、ツカサ君が言ってた『ママにダダ』も本当に思えてくるから参るよ)
本当に彼は不思議だ。
何も知らないのに、全てを知っているように自分を受け入れてくれる。
全てを楽しい事に、嬉しい事に変えてくれる。
(ツカサ君には……貰ってばっかりだなあ……)
シアンの嬉しそうな微笑みを見ていると一層そう思えて、ブラックは泣き笑いの顔で頬を綻ばせた。
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