和解

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 和解

    「……僕が来ることは解ってたみたいだね」  白亜の宮殿、シアンの質素な私室を訪れたブラックは、こちらに背を向け座っている相手にぶつけるように吐き捨てた。  開口一番には相応しくない、敵意を感じる声音。年老いてもなお背筋を伸ばした老女は、そんなブラックの剣幕にくすりと笑ってからこちらに振り向いた。 「貴方のあのわざとらしい動揺の仕方を見ていたら解りますよ。貴方はきっと……ツカサ君を置いてから、私の元にもう一度来るだろうってね」  その笑みに険は無い。だが、そんな態度がブラックをどこまでも苛つかせた。  彼女……シアン・アズール=オブ=セル=ウァンティアは、昔から何も変わらない。彼女は笑顔で人を受け入れるふりをして、平気で人を足蹴にする。その優しげな老女の姿とて、彼女自身どう思っているかは判らないが、他人を油断させる一つの手段である。  神族は真の姿と仮初(かりそめ)の姿を持つ。その者の年齢に見合う姿と、それを隠す美しい姿の二つを。通常神族は後者を使うのに対して、彼女は偽りはいらないと豪語しその真の姿をさらけ出していた。  これが何か考えが有っての事ではないのなら、恐ろしい事だ。  彼女は自らを他の神族より下に落とすことで、彼らを油断させているのだから。  しかし、最も性質が悪いのは……彼女がそれを意図せず行っていると言う事。  彼女は自分の“象徴”と同じく、自然体でそうしているに過ぎない。何も拒まず、ただし従わず、自分の意のままに全てを押し流していく。そうする事で、今の彼女は成り上がったのだ。能力の高い神族達を従える、世界の監視者に。  彼女はこれを意識せずにやったという。一部の作為(さくい)もないと言う。  そんなシアンのいけ好かない性格が、ブラックには一番鼻持ちならなかった。  今だってそうだ。彼女はさも「そうなる事は予測していた」と話をしているが、この事とて彼女にとっては当然に過ぎないのだ。  いけしゃあしゃあと言う眼前の相手に嘆息しつつ、ブラックは腰に手を当てた。 「良く言う。お前は僕が不快になる事をわざとばら撒いてくれたじゃないか。それに、色々とまだ話してない事が有るだろう。……古い付き合いってのは損だね、嫌でも手口が解ってしまう」  
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