6人が本棚に入れています
本棚に追加
「私と友人のHが山へ登り始めたのは十二月の四日か五日くらいだったと思います。その翌日には目的の山頂へ到達し、見事な雪景色を見ました。しかし下山を開始したころから急激に天候が悪化して、一時間もしない内に一メートル先も見えない様な猛吹雪になったんです。そんな折、運よく避難小屋を見つけたので私達二人はここで吹雪をやり過ごすことにしたんです。この山小屋には薪ストーブが在って、薪もいくらか残っていたので、一先ずの暖をとることが出来ました。ところが夜まで待っても吹雪は止むどころかひどくなる一方で、結局一晩この小屋で過ごすことになったんです。しかし夜中になって突然Hが体調を崩しひどい熱を出しまして、私はHを元気付けながら朝になるのを待ったんです。しかし朝になっても吹雪は止まず、Hも小屋の中で苦しんでました。そこでこの日も下山は諦め、他の登山者が来ることを願いながら、小屋の中でじっと吹雪が止むのを待ちまし
た。
ところがその晩は前日とは比べ物にもならない程の冷え方で、ストーブにあたっていても反対側の背中が凍ってしまうのではないかと思う程の底冷えだったんです。私はあまりの寒さにHを励ますことも忘れていました。吹雪で小屋の扉がガタガタ鳴って、窓などは今にも割れてしまいそうなくらいガシガシとゆれてました。そんな折、突然その全ての騒音が一瞬止んだかと思うと、ドンドンと誰かがドアを叩く音がしたんですよ。まさかこんな吹雪の夜に人が来るとも思えませんし、私は一秒とてストーブから離れたくないと思ったんですが、この寒さの中で万一にも外に人が居たのでは、一時助けが遅れただけでも命に係わると思い、戸にかけられた閂を外したんです。
最初のコメントを投稿しよう!