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「蒼は、Ωじゃないよな?」
その言葉が引き金になり、俺は譲の手から薬入れを奪いトイレから出た。
トイレの床に落としてしまった、汚いから洗わなきゃ…もうトイレは嫌だ…何処か、誰もいない場所…
俺は近くにあった扉から校舎を出て裏庭にやってきた。
壁に貼ってあった校舎案内地図には裏庭に出る場所が書いてあって、グラウンドも近くにあり水飲み場があると思った。
俺の考えた通り水飲み場があり、そこで容器を水につける。
安物の薬入れだからか隙間から水が流れていき中の薬をゆっくり溶かしていく。
あ、なくなっちゃった…ヤバイな…母に新しい薬…貰わなきゃ…
俺は水を止めてズボンのポケットに入れていたスマホを取り出す。
すると画面のお知らせには今朝交換したばかりの譲の着信を知らせていた。
俺は電話しても何を言ったら分からなくなるから見なかった事にして実家に電話をした。
数コール耳に響いた後、のんびりした母の声が聞こえた。
『蒼、どうかしたの?もう学校は終わり?』
「…母さん、俺ってαだよな」
俺がそう告げると電話越しでも母の空気が張り詰めたと感じた。
普通ならここで「当たり前じゃない、何言ってるの?」と母が笑い話のように愉快そうに口にする筈だ。
でも、母の沈黙はそれを否定していた…嘘でも笑い話にしてくれたら安心出来たのに…
いや、嘘を付かれて真実を隠される方が嫌だな……無言とは、つまりそういう事なんだ。
なんで、可笑しい、だって俺の家は代々αの家系で母さんも父さんもαで…
俺が今まで信じていたなにが嘘だったんだ?…震える唇を引き締める。
母は電話の向こうから慌てた様子で声を荒げた。
『蒼!なにかあったの!?』
「俺って母さんと父さんの子だよな」
『当たり前じゃない』
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