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『実験結果さえ手に入れて…その時は、学校と私達のせいにするかもね』
「…………マジか」
一番Ωを軽視しているのは………いや、やめとこう。
とりあえず俺のαのふりの生活は今始まったというわけか、今まではふりじゃなかったし…
母との通話を切り、水を出して引き締めるために顔を洗う。
冷たい水が疲れた緊張をほぐしてくれるような気がした。
ポタポタと髪から雫が一滴一滴溢れ落ちる、少しだけ落ち着いた。
濡れた薬入れを持ち歩き出そうとすると水飲み場の上になにかがあるのに気付いた。
太陽に反射してキラキラと光るそれを摘まんで目の前に持ってくる。
小さな十字架が揺れている、銀色のシンプルなネックレスだ。
誰かの忘れ物だろうか、置いといた方がいいだろう…誰かがまた来るかもしれない。
「……あ」
「…っ!?」
人の声が聞こえて驚いて手をびくつかせて心臓がうるさいほど跳ねる。
あの話の後だ、αには会いたくなかった…この学園にいるかぎり不可能だが…気持ちを整理してからでいいじゃないか。
今すぐ逃げたくて走る体勢になったが、すぐに肩を掴まれ逃げられなかった。
これは振り返らなくてはいけないよな、先輩だったら無視出来ないし…
αは性別の中で一番上下社会だと言うし、俺も今はまだαだしふりをするなら俺も上下社会に習わなくては…
知る前なら普通に話していたんだろうな、知れて良かったけど…αだったアホな自分が懐かしい。
しかも今αにうなじを見せている状況だ、怖すぎる…早く振り返らなきゃ…
「…待て、泥棒」
「どっ、泥棒!?」
全く見に覚えがなく思いがけない言葉に勢いよく振り返った。
そして目を見開き驚いた、俺の視界に写ったのは真っ白な雪だった。
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