第一話

8/39

274人が本棚に入れています
本棚に追加
/74ページ
「蒼!もう移動だってさ!」 「…んぁ?あ、うん」 結局一睡も出来ず譲に揺さぶられて重い身体を起こして大きな欠伸をする。 これで眠気が覚めればいいけど、くっつきそうな目蓋を必死に上げる。 そんな俺の努力は虚しく入学式はほとんど熟睡で終わった。 最初は頑張って起きようとしてたよ、でも睡魔には抗えなかった。 終わったタイミングで譲に肩を叩かれて起こされた。 やっぱり椅子で寝ると寝た気がしないな、余計疲れた気がする。 もう帰るだけだし、後は寮の自室でゆっくり寝るかな。 確か今日は入学式だけだったからこの後は解散だろう。 また一つ大きな欠伸をして、譲と一緒に廊下を歩く。 あ…そうだ、薬飲まなきゃ…これだけは絶対に忘れてはいけないと両親に散々言われている。 「この後飯食いに行こうぜ!」 「飯って、何処で?」 「学園の食堂だよ!月岡学園の食堂すげぇって評判なんだよ!」 へぇ…それは行ってみたいがエリート高校だし、値段高そうだな。 俺は一般家庭だし、仕送りは貰ってるけど無駄遣いしたくないな。 一番安いものを頼んでそれから今後を考えよう。 その前に薬を飲もうと思い譲にトイレ行ってくると伝えて近くのトイレに入った。 母に言われた通り譲にも知られちゃいけないよな。 トイレに誰もいない事を確認してから扉を閉めた。 この薬は水なしで飲めるから何処でも飲み込めて楽だ。 それに食前とか食後はないからいつでもいいのもありがたい。 制服の内ポケットに入れていた四角い小さなプラスチックの容器を出す。 最近いつも使ってる白い容器を無くしてしまい代用品として透明の容器を使ってるが、特に何も不便はないからそのまま持ってきていた。 薬入れの中から一粒カプセルを取り出し口に含み顔を上に向けて飲み込む。 ゆっくりゆっくり喉を上下に動かし、一息つく。 「…ふぅ、よし!」 これでめまいや具合悪くなったりしないだろう。 言われてから毎日欠かさず飲んでいたからそんな症状になった事はないけど、誰かに迷惑掛けたくないから俺は疑わず毎日コレを飲み続けている。 ふと鏡に写る自分の姿を見つめる、そこには何の変哲もない俺の顔が写っていた。
/74ページ

最初のコメントを投稿しよう!

274人が本棚に入れています
本棚に追加