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本当に誰が見ても完璧なほどのβ顔で苦笑いする。
俺は本当にαなんだろうか、αだと言われたあの日からたまに考える疑問。
そんなくだらない事を考えないようにして話題を逸らす。
もう少しでなくなりそうだなとぼんやりと容器を眺めながら考えて、内ポケットに入れようとしたらトイレのドアが開いた。
「もう終わったー?」
「あっ、譲」
ずっと待っていたのか譲がトイレのドアから顔を出した。
俺は譲の方に振り返ると手に持っていたものが指からするりと滑り落ちる。
カンッと固いタイルにぶつかりそのまま誘導するかのように譲の足元に滑っていく。
気が抜けていて拾うのを忘れてそれを呆然と眺めていた。
譲はしゃがみそれを拾い上げて透明の容器の中身を見つめた。
母の言っていた事は本当だったのだと譲の顔を見れば分かった。
顔面蒼白の譲は震えた手で俺に薬入れを差し出した。
「…蒼、これって」
「譲、いったいどうしたんだ?」
俺までパニックになりそうなのを抑えて譲に聞く。
譲がこんな顔をするなんて、この薬はいったいなんだ?
わけが分からなくなり、指先から冷たくなるのを感じた。
俺の手もいつの間にか震えていて、拳を握りしめる。
譲がこうなった原因、知りたくないと心の中の俺は叫んでいた。
でも、知らなくてはいけない事なんだとそう思った。
「お、れの姉ちゃんがΩなんだよ…だからこの薬…見た事あって」
え…譲のお姉さん?薬とΩは関係ないと思うけど…
だってこの薬は俺の持病を抑える薬だって母に渡されて…
持病?何の病気?今まで少しでもなにか症状があった?…俺は、病気?
母が人に見せちゃいけないって強く言っていた。
ただの持病の薬なのになんで見せちゃいけないんだ?
譲が俺の肩を掴んで、無理に笑うのをただただ見ているだけだった。
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