Dom

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 静かな寝息を立てる海老沢に、パンツを履かせて薄い布団をかけてやる。オレも軽く身体を拭いて、部屋着を着た。  ベッドの端に座り、柔らかい髪に触れる。頭を撫でると、海老沢が眠ったままでうっすら微笑んだ。  今日は、撫でてやれなかったな……それに、褒めてもやってない。  意地はって言わないから、褒めてやれなかった。  でも、2時間もがんばったんだから、寝落ちする前に褒めてやれば良かったよな。  Subは、Domに服従したことを褒めてもらえないと、欲求不満になる。ただ従わせるだけじゃダメなんだ。Subは性癖を満たす道具じゃない。  今日のオレは、全然ダメだったな……  もし海老沢のSub性が強かったら、満たされない承認欲求で不安にさせてしまったかもしれない。  DomやSubの性質の強さには個人差があると、オレは思ってる。  例えば、Domが黒で、Subが白。そしてNormalが透明だとすると、海老沢はたぶん白濁。ちょうどヨーグルト味のゼリー飲料の色だ。  限りなくNormal寄りのSub。そこに、海老沢がいるんだと思う。  Subらしい性質の薄い海老沢は、自分がそれとは気付きにくい。だから思春期を過ぎた今でも自覚はないし、決まったDomがいなくても精神の安定を欠くことがなかったんだろう。  そんな相手を好きになってしまったオレは、Domの本能を、湧き上がる支配欲や嗜虐性を、抑え込んでいなきゃいけない。  本人にSubとしての自覚があれば、海老沢のSub性がもっと強ければ、Domに支配されることはあいつにとっても至高の喜びであるはずで。  オレだって、その欲求を抑え込む必要はないのに。  これをしたら、怖がらせる?  もっとしたら、逃げられる?  これ以上求めたら、離れていってしまうだろうか……  そんな不安との、毎日が闘い。
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