セーフワード

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 こうなるってわかってたから、ずっと気をつけてたのに……  激しい後悔に、背筋が冷える。  鳥肌がおさまらない身体が、一人のベッドの上で震えていた。  親指の傷は、小さなかさぶたになった。  オレは一日に何度も、そのかさぶたを眺めたり、舐めたり、治って消えてしまわないように剥がしたりした。これが消えたら、海老沢との繋がりなんか、何にもないから。  海老沢が怒ってうちを出て行って、3日が経った。  我ながらヘタレだなって思うけど、オレはただ塞ぎ込むだけで、何にもできないでいる。  何度も、何度も、ラインのメッセージを作っては消した。  オレが悪かった  あんなこと言うつもりじゃなかった  ひどいこと言ってごめん  ひどいことしてごめん  電話していい?  会いたい  息ができない  一個も、送れなかった。  自分が海老沢の首を絞めたときの手の感触が、忘れられない。落ちる寸前の、恐怖に見開いた海老沢の目も。意識を取り戻すまでの、死にそうな不安も。  オレさえ我慢できるなら、もう海老沢には関わらない方がいいんじゃないかとさえ、考えていたんだ。  会いたくて、触りたくて、おかしくなりそうだったけど。  きっとそれはオレの方だけだから。  会いたい、と言いながら、オレたちは、次の日も、その次の日も、普通に学校で会っていた。いつも通り5人で弁当を食って、バカな話して、笑って。  まるでいつも通り。  でも、海老沢とは一度も目が合わなかった。  そりゃあ、ツンツンされて話もできないよりは、ずっとマシだ。でも、その吹っ切れたような態度に、無視されるよりも強い拒絶を感じて、オレは焦った。どうしようもなくイライラして、何にも手につかない。  このまま友達に戻るなんて、やっぱりオレには耐えられない。 [ちゃんと話したい。今日ウチ来れない?]  崖から飛び降りる覚悟でラインしたら、思いもよらない返事が返ってきた。 [今日俺合コンだから無理]  オレは教室の椅子で脱力して、天を仰いだ。  溜息しか出なかった。 ***** 「え、お前ら合コンじゃねぇの?」  海老沢はもう下校したのに、柳瀬たちが教室でしゃべってるのを見てオレは驚いた。  海老沢が合コンと言ったのは嘘だったのか。  海老沢曰く「無駄イケメン」のオレだけがハブられたのかと思っていたのに。 「あぁ、海老沢? あいつC組の大村に誘われてったぜ? あいつら、同中(おなちゅう)なんだろ?」  柳瀬は椅子をギコギコと漕ぎながら答えた。  大村というやつをオレは知らない。海老沢から名前を聞いたこともなかった。  オレら以外に、合コンに誘われるような仲のやつがいるってだけで、イラッとする。
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