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翌日、昼を過ぎて、彼女が目を覚ました。
大急ぎで病室へと向かった。
「…俺の事…分かるか?」
彼女は、ぽーっとした顔で、俺を見た。
俺の顔を見ているというより、その奥を見ているような感じもした。
「…すみません。わからないです。」
見えない圧に、押しつぶされるような感覚。
カノジョは、自分の名前、家族、出身地あたりまではすらすらと答えた。
しかし、ここ数年の出来事、大学の名前、自分の仕事、今の年齢────
そして、俺のことも忘れていた…。
「そっか…」
「ごめんなさい」
俺は、カノジョのミニの写真を見せた。
「俺はな、君の彼氏だった。君はこの車を運転していて、事故をして意識を失った」
「…ごめんなさい…何もわからないです…」
「そっか…」
医師から事情を聞いたカノジョが話した。
「記憶障害、やっぱりなっちゃってた。ここ最近の記憶が全部…。それに、右半身も少し動かないみたい。それはリハビリで治るレベルだそう。だけど、まだまだ侮れない。脳に障害があった以上…」
「ある意味…望み通りになってしまったわけか…」
「辛くないの?」
「…覚悟はできてた。…でもいざこうなると…。いや、かまわないさ。俺はこれを望んだんだから」
「そう…。とりあえず、私今日は早く上がれるから。夜ご飯、またどこか行く?いろいろ話聞くよ」
「そうだな…。何時頃になる?」
「今日は7時かな。終わったら、ロビーに行くようにするよ」
「分かった。少し、用事があるから、それを済ましてくる」
カノジョは、俺に何かを感じ取ったらしい。
「…いってらっしゃい。またあとでね」
カノジョと別れ、病院を出た俺は、カノジョと自分の車を普段から整備してもらっていた店へ出向いた。
事故をしたミニは、その店に置いておいてもらっている。
「あの、すません…お邪魔します」
「あぁ!どうだ、彼女さんの様子は??」
「あぁ…昨日はありがとうございました…。目は覚ましてくれました」
「おお!良かった…」
「でも…右半身が少し動かないみたいで…。あと、ここ数年の記憶がなくなっているみたいです」
「そうか…。大変だとは思うけど、頑張るんだよ」
「…ありがとうございます。そうだ。お願いがあるんです…」
俺は、さっきカノジョに見せたものとは違う写真を、カノジョのミニの中に入れた。
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