もうひとつの恋のはじまり

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いつからあいつを目で追ってるか、なんて。 考えないようにしてきたけど……そうだな。 あの背中を、見たときからだろうか。 *** 目頭を押さえ、モニター画面から視線を逸らした。 見上げた壁の時計に目をやる。 ……23時。 いい加減腹も減ったし帰りたい。 重い肩を押さえながら、隣を見る。 数時間前に帰らせた石川美波のデスクだ。 片付けているようで、端の方に物を寄せただけの何ともあいつらしい纏め方に疲れた身体から力が抜け、笑いが込み上げた。 (いねぇのに笑かしてくれるとか、最高かよお前) 仕事だと割り切っていようとも合わない人間とは合わないし、合わせようとすれば互いがストレスを抱える。 こっちとしちゃ、どうして社内でまで気を使ってやらなきゃならねぇんだと、そう思って過ごしてきた。 そんなもんだから関わった事務は、よく辞めた。もちろん、上には睨まれる。 そうして何人目かのペアの営業事務として、やってきたのが石川だ。 総務からの異動だったあいつは、営業課の仕事については全くといっていいほど理解してなくて、リズムに着いて行けてない雰囲気で。 (初めは、また面倒なのがきたなって思ったんだよな) あの頃の俺は、事務との意思疎通がなってなかったから細かいミスは言い訳できないほどに多かった。 苛立ってもいた。 そうなると、もともと優しい言葉なんて使いこなせない俺の言葉は。 更に優しさを持たず、女を萎縮させる。 まあ仕事で関わる女に男として好かれたいだなんて思ってないから問題ないと思って避けてきたけど。 こいつもたいして長くもたないんだろうと、舐めてた俺に。 あの日、あの背中が、あの声が、あの表情が。 光みたいに眩しく鮮明に。 俺に初めての感情を、認めさせた。
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