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連れて来られたのは、高瀬さんには似つかわしくない、こじんまりした居酒屋。
座敷は、ひとつしかなくて、後はカウンターだけで。
「よ、久しぶり大将」
「おう、俊平! なんだ今日は奥田くんじゃねぇのか!」
その問いにヒラヒラと手を振って奥の座敷を高瀬さんは指差した。
そのまま座敷に引っ張られ、靴を脱げと目で合図され。
まあ、元気もないので素直に従い、座る。
向かい合って高瀬さんも、座る。
「飯食ったか?」
「食いました」
「……ビール?」
「はい」
素っ気ない受け答えしてるって、わかってる。
だから正面に座る高瀬さんが、ガシガシ頭をかいて息を吐いたのも、申し訳ないなって思いながら気配を感じてた。
それでも――。
話すたびに、涙が、出そうになってしまうから。
こんな態度でごめんなさい。
「彼女、よかったんですか、あんなことして」
「あ? 彼女じゃねーよ。別に、寄ってくるもん、撒くのも失礼だし会ってる」
「……ぷ、あはは、吉川さんの言う通りクズだぁ」
誰に向かって言ってんだ、と怒りながらも、運ばれてきたビールを、コツっと軽く乾杯してきた高瀬さんが一気にジョッキ半分ほどまでビールを飲む。
私もつられて飲んで、力が抜けてくる。
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